Multiversal #89 //30th of November // at RauXXXaus / Schwester Martha
BUSÆXUS
Dr. Nexus – ボイス、エレクトロニクス
Marcello S. Busato – ドラム
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JEALOUSY PARTY
Roberta Wjm Andreucci – サンプリング、ミックス
Mat Pogo – ボイス、サンプリング
feat. Utku Tavil – ドラム
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Jd Zazie
Jd Zazie – ターンテーブル、cdj、ミキサー————————————————————————
Company Fuck
ancient sport of karaoke(カラオケという伝統競技)
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čirnŭ x Piña
čirnŭ – エレクトロニクス
Constanza Piña – エレクトロニクス
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M-Sygma Correlation
…前編から続く
限られた光源の中でプレイしているデュオは、チリ人テクノ・エクスペリメンタリストでテクノフェミニズムを掲げる活動家のConstanza Piña、それからノルウェーのベルゲンから来たčirnŭの2人であった。重たく分厚いインダストリアルな音がドローン的に部屋を埋め尽くし、空気が振動している。ひとしきり部屋中を震わせてデュオが演奏を終えると、機材が並ぶテーブルの周りに集まった観客が、興味深そうに機器を確認していた。
「これはラジオで、それからこれ(分厚い金属のシートにマイクが括り付けられている物体を指差しながら)は、ピックアップだ。フィードバックを集めて音を循環させているんだ」とčirnŭが説明した。
その重たい金属板の印象からは、どことなくエコロジカルな提言を感じた。リサイクル材料であるという素材的な理由からではなく、その金属板の果たしている機能がそれを思わせたのだった。部屋の中の音を循環させ、部屋中を震わすほどのノイズを発生させるという目的のために音をリサイクルするという構造が、エコロジカルそのものだったからだ。
そして、テーブルに並べられた目を見張るほど多様な機材の山を前に、čirnŭに聞かずにはいられない質問があった。「今まで手に入れた機材で使い物にならなかったものとか、買って後悔したものってある?」čirnŭの答えは秀逸だった。「ひとつもないよ!」首を横に振りながら、とても満足そうな笑みで答えてくれたのだが、答えそのものよりもこの笑みが全てを物語っていた。
続いてステージに上がったのはJealous Partyだった。マイクを持ったMat Pogoと、cdjを前にしたRoberta WJM Andreucci、それから今夜はドラムのUtku Tavilを迎えたセットだった。
Mat Pogoはパーティーそのものみたいな男だ、手に持ったマイクに向かって全力で笑い始めたかと思うと、リズミカルでフリーキーなフリースタイルボーカルを始めた。彼らの音楽は、「エラーミュージック」というジャンルで言及されている。グーグル先生に聞いてみても、このエラーミュージックとは何なのか、いまいち掴むことができなかった。そもそもググる事は無意味なのかもしれない、体験あるのみ。Jealousy Partyとは、エラーミュージックであり、同時にR&Bで、その多諸々の音楽だ。
ウトゥクが絶妙なところにビートをハメ、cdjを操りサンプリング音をまるでパーカッショニストかのように奏でるRoberta WJM Andreucci。彼女の機材の触り方は、手や肘を全活用して、とても器用であると同時に激しくパンクだ。
日本の読者にとって面白いかもしれない情報の一つとして、このRoberta女史は、現在はベルリンを拠点にしつつもイタリア出身で、90年代にイタリアに初めてRuinsの吉田達也を召喚した立役者のひとり。
このJealous Partyのパフォーマンスの後、Jd Zazieが抽象的でエクスペリメンタルなサウンドスケープを描くDJ風のパフォーマンスを披露し、それからDr. Nexusという音のマッドサイエンティストを思わせるエレクトロニックミュージシャンとイタリア人フリージャズドラマーのMarcello S. BusatoのデュオであるBUSÆXUSが、エレクトロニックと生ドラムのハイブリッドによるマッドで激烈なパフォーマンスを行った。Dr. Nexusの腕に日本語で「反戦」と読める腕章を見て、この激烈な表現は、はびこる戦争に対する怒りを一部表現しているのかも、などと考えた。
そして夜を締めくくったのは、Company Fuckの「カラオケという伝統競技」とクレジットされていた奇妙ななパフォーマンスだった。シアター風で、そしてインタラクティブ、爆発的に不適切な冗談とダンスのオンパレード、でもどこか憎めない不思議な芸風だった。Jealousy Party同様に、ジャンル分けや言葉では掴みきれない、体験するしかない類のアーティストだ。
このジャンル分け不可能/混成豊かなシーンについて、もっと知るための手がかりを求め、この夜をオーガナイズしたMultiversalというDIYなフォーメーションで活躍する2人、ドラマーUtku TavilとAnja Tedeskoに話を聞いた。
Writer(筆者以下W):Multiversalは誰が企画してるの?それから、この前のStarling Murmurationsはブサト氏?
ウトゥク(以下U):Multiversalは自分(Utku Tavil – ウトゥク・タヴィル)とAnja Tedesko(アニヤ・テデスコ)で企画をしている。Starling Murmurations(筆者注-前編で紹介)はMarcello Silvio Busato(マルチェロ・シルヴィオ・ブサト)の企画だよ。
W:アニヤとウトゥクの間での分担は?アニヤもパフォーマー?
U:僕らはどちらもオーガナイズに関わっている。テクニカルな部分については僕が担当して、会計的な部分やバー、それからベルリン以外の地域で企画するものや新しい分野の企画についてはアニヤが責任者だ。
MultiDOMというのが、Multiversalがツアーやフェスティバル、新しい街のシーンとの繋がりを作っていく時のフォーマットで、また48時間耐久企画や、ブートキャンプ、楽器作りや様々な音に関連したワークショップの企画も彼女の役割だ。
アニヤ自身は演者じゃないけど、エクストリームな音やパフォーマンスが好きだ。僕らはデュオもやっているけど、このデュオではあまりパフォーマンスを行っていない。また2014年から2015年にかけて彼女はベルリンのAltes Finanzamt(旧税務署)というコレクティブ・スペースで独自のMultiversalイベントも企画していたが、2014年以降は一緒に動いており、種々の決断も2人で下す。
W:なるほど。ウトゥクはサウンドエンジニア的な活動もしているよね。アラームフェスティバルでオペレーションをやったり。音響方面の出身?それとも完全なDIY?物凄い数の企画をして、ツアーして、文字通り、メイキング・ア・シーン(シーンを作るだが、慣用句で「騒動を引き起こす」という意味もある)してる事に、感心してます。
U:僕は音響エンジニアとして勉強したわけではないので、サウンドエンジニアではない。トライ&エラーに基づく独学だ。
十代の頃に(とてもLo-Fiな)機材で録音のテクニックを研究したりし始めて、ミキサーなんかを触る様になった。ライブのオペレーションは高校生の時からで、以来自分の音楽とライブの音作りというのが相互に影響を与え続けている。
MultiDOMは、Multiversalの中のひとつのプロジェクトという位置付けで、我々がやろうとしているのはシーンを作ること。もっと正確に言うと既存のシーン間の繋がりを作ること。なので、各地で自分達の様に自主的に動いているローカル・シーンやミュージシャンと関わりが深い。
MultiDOMは凖オープンコール形式なので、各都市で、ロジスティック面で協力者が必要となる。宿泊、バックライン(現地で用意する機材その他の要望)、サウンドシステムなど、各都市で用意が必要なものがある。自分達は、団体に所属せずインディペンデントにやっているのと、エントランスを非常に低く設定すること(30人を超えるミュージシャンが出演する企画であっても、観客が支払うエントランスは5ユーロ以上のドネーションという設定)にしているため、ロジスティック部分についてはお金をかけることが出来ず、関わるコミュニティーの善意に頼っている。そのため、このフォーマットで日本でやるのは、日本の音楽ライブハウス特有の運営スタイルや、滞在費がヨーロッパに比べて高い事も起因して、難しい。
これまでMultiDOMとして訪れた地域はスペイン、フランス、イタリア、スロヴェニア、ギリシャ、トルコ、オーストリア、スイス、オランダ、イギリス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、それから南アフリカだ。スタイルやジャンルを限定する事なく、色々なミュージシャンをアドホック的に組ませて、それからプレイ順も臨機応変に企画している。
アニヤ(以下A):MultiDOMがこうやってたくさんの都市へ開催地を広げたのは、これまでオーガナイズしてきたイベントに参加してきたミュージシャンからの要望もあっての事だった。こうした繋がりのおかげで、私達だけではなく参加する全てのパフォーマーにとって、新しい現実やシーンと触れるきっかけになった。(一例として、ヨーロッパ全土で言うと、ハードコアやパンクのコンサートを行っているヴェニューでアコースティックなフリー・インプロヴィゼーションのコンサートが開催される事は稀だけど、こうした繋がりのおかげで実現してきた。)
多くの場合、こういったコラボレーションがMultiversalやベルリンで開催してきたイベントの枠を超えて、ヨーロッパの外の地域に広がっていった。なので、MultiDOMは新しい繋がりをシーン間で、それからミュージシャン、ヴェニュー、オーディエンスの間で作るプラットフォームとして重視している。言葉を変えると、多様な社会、文化、政治的な現実の下で生きている者達を繋げていく事にフォーカスしている。
W:なるほど。細部化して閉塞感のある各シーン間の繋がり不足とか、エントランスの額については、まさに日本で観客として不満な部分だったから、関心のあるトピック。問題解決思考で素晴らしい。
U:ヨーロッパでも、安くはないよ。だから僕たちの企画も、徐々にスクワットなんかにシフトしていった。少ないお金でやりくりしている人にだって、アクセスできる環境を作ることが必要不可欠だ。
それから、瞬時にコミュニケーションが取れて価値観の異なる者同士が繋がる事が、技術的には出来きるこの現代ですら、異なるシーンを繋げるのは容易くないことに気が付く。即座に繋がれる時代故に、人々は以前にも増して、未知のアイディアや人々と繋がることを怖いと感じている。もちろん、そうじゃない人も居て、そんな人々の勇気と能力と熱意があるからこそ、僕達がやっている事が実現できているのだけど。
A:Multiversalの目的は、人々や場所の可能性の限界を押し広げて行く事、オーガナイザーも含めて。様々なレベルでこれを実現する努力をしており、ツアーの組み方(休みなく出来るだけ多くの都市や国を移動する様なスケジュールの組み方)から、参加する出演者の多彩さ含めて。
MultiDOMを始めてから5000以上のアクト、ミュージシャンの人数で言うと800人以上をステージに上げてきたのだけど、これは私たちのオープンコールのポリシーと、宿泊費などの経費を削る努力の成果。(友達の友達の友達のソファーや床やドミトリーやスクワットに泊まらせてもらったり、時には演奏したそのステージで寝ることや、ミュージシャン自身のキャンピングカーに寝泊まりしている。)
W:えっ!5000ですって。本当に凄い。真似できる人なんて居ないかもしれないけど、でも、やろうと思えばできるという事を知って人々を感化するという意味合いも含めて、ウトゥク達の知識や功績を広めるのは、有用だと思う。体力的にも、モチベーション的にも圧倒される。
U:すでに触れた様に、自分達だけじゃなくて、一緒にコラボレートする全ての人で成り立っている。
みんな自分の能力と限界の範囲内で貢献して、より骨の折れる役割みたいな立場の者もいるけど、でも最終的には昨夜のイベントみたいに、働いた/演奏した全員が一週間の食べ物を買えるだけのお金がもらえて、全出費がちゃんと賄えて、最高の音楽がまともなサウンドシステムで観客に届いてちゃんと楽しめてもらえた様な一夜が仕上がると、なかなかいい体験だよ。
A:こういった企画を可能にしているのは、それから本当のアーティスティックなキュレーションが起きているのは、偶然性や新たな組み合わせを恐れない我々のラインアップの組み方や出演者の順番の決め方などから来ていると考えている。
これまでに一緒に演奏したことのないミュージシャンを、共通する物があるかもしれないと言う視点と同時に、異質な物を組み合わせるという視点で、同じステージに上げており、おかげで皆がそれぞれの殻を破る機会となっていると思う。パフォーマーにとっては新しい表現やモードを発見する機会となるし、オーガナイザーにとっては一見合わない組み合わせでもリスクを取ることを学ぶ機会となる。
また、観客にとっては、見知らぬものに対面する開けたマインドや好奇心を持つ機会になる。これを実現するためには、ある程度の下敷きが必要となるのだけど、時間枠を20〜25分と短く設定することで、まとめている。
W:ファンディングについては、どう思ってる?
ベルリンには、音楽に市の税収を分配する委員会があって、ハイ・カルチャーだけじゃない音楽にも財政支援が行き届いている事が気になった。ハイ・カルチャーというのは、彼らが使っていた用語で、クラシック、オペラなどの伝統的なシーンは年間7億ユーロもらっているそう。一方でクラブカルチャーとか、ベルリンの新進気鋭アーティストやフェスティバルがもらえるのは、200万ユーロ。比べると少ないけど、無いに比べたら素晴らしい。
それに、Loopholeみたいな小さな会場で演る企画の中にも、ファンディングを受けているものがある所から察するに、委員会のリベラルさとか、柔軟さが伺えるのだけど。
Multiversalはおびただしいし数の企画をしてるし、委員会に支援を受けるには詳細な会計報告を出さないといけないという事だから、支援の申請なんかは考えもしないかな。それとも支援されているの?企画自体にファンディングをもらうより、個別のミュージシャンへの支援や奨学金の申請ルートの方が、やり方に合ってる?
U:Loopholeが8年越しの活動を認められて、多少ながらファンディングをもらえたのはとっても喜んでいるよ、特に昨年の賃料の300%の上昇を受けて、ファンディングが無かったら、続けられていなかっただろうから。
だけど、Loopholeがあの場所を守れたのは、クラウドファンディングと、このヴェニューのステージに立ってきた数々のミュージシャンの役割の方が大きかった。Loopholeを運営しているクルーは年々変わっていくけど、その精神はいつでもDIYで、比較的非商業的というこだわりでやってきた。ファンディングを受けるに至ったのは、事前の準備と申請のプロセスのために、しっかりと働いた人達が居たからなんだ。
僕達がファンディングの申請をしないのには、いくつかの理由がある。
定期的に財政支援を受けている様な大きい団体は、とても閉じられていて、特定のシーンにしか向いていない。最近は改善されつつあって、混成的な音楽で支援を受けているプロジェクトも見られる様になってきたものの、まだまだ閉鎖的で、結果的にあまり面白みがない。
昨日話していたように、色んな部屋、音響、状況下で演奏することは、ミュージシャンの音を音楽的に成長させる。指示通りにテクニカル・シートに書かれた要望を全て用意してもらい、豊富な資金のあるフェスティバルなどで演奏をする事に、チャレンジや成長の機会はない。
だけどこれは、ファンディングを受けて演奏したり企画をする者の直接の責任というわけではない。申請の手続きが、細部まで準備して記述する事を要求せざるを得ず、こうした手続きが、機動的にオーガナイズをする妨げになる。単純な例を挙げると、直前にプログラムにアクトを加えようと思っても出来ない。
それから、どうしても誰かの仕事になってしまう。ブッキング・エージェンシーが上がりを取っていくのと同じで、ファンディングの申請書を作る手続きをする人が、お金を貰う事になる。
僕達はミュージシャンであり、音楽ファンであり、自分達の好きなエクストリームなフォームの音楽を、志同じくする者達のために企画している。
そして君の指摘は正しい。ミュージシャン個人として旅費の支援申請したメンバーが、MultiDOMのツアーに参加する他のメンバー分の交通費を賄えた事があった。ファンディングの費用を使って、本人のほか8人のミュージシャンが同乗して、ガソリン代や高速代金が賄えたのは、リソースの使い方として素晴らしいと思った。
A:それから、サルデーニャ、コペンハーゲン、オスローといった地域で一緒にコラボレーションをしたアーティストが、それぞれの地域のファンディングを利用して、最小限の経費やみんなの旅費の一部を負担できた事もあった。
一部のファンディング団体については、倫理的な問題点をはらんでいることから支援の申し込みをしないという理由もある。
U:ノルウェーのMoEというバンドは、いつもこんな感じでツアーをしている(筆者注−ノルウェーはミュージシャンのツアー支援に積極的な事で有名)。彼らのツアーは毎回、様々なファンディングを受けているが、他のバンドも一緒に連れてくる。2012年ツアーで The Observatory(シンガポール)、2015年にはJealousy Party(僕もドラマーとして参加)、それから2017年のGerda (イタリア)が、彼らが一緒にツアーしたバンドの一例だ。
でも、ファンディングの運営方法はなんとも茶番なんだ。支援を受ける団体にレッテルが貼られる。それは、僕たちのやり方と馴染まない。
我々にとっては、ファンディングが無いことが逆に、接触するアーティストやパフォーマーをふるいにかける事に自然と役立っているよ。おかげで、モチベーションの高いアーティストと一緒にやる事になるからね。全部用意された環境で、たくさんお金をもらって、ホテルで寝泊まりして、大きなステージで演奏する事だけが目的じゃないようなアーティストたちだ。
A:言葉を変えると、私たちは「ロックスター」みたいな人たちとは一緒にやれない、と言うことね。
ベルリンに外からやってきた者としては、この街で目の当たりしたファンディングの在り方は目を見張るもので、日本でも伝統音楽やクラシックに限らずよりコンテンポラリーな音楽に助成金が支出されるような将来に期待を抱いていた私は、ファンディングへの批判がベルリンのシーンの中から聞こえてくることに困惑したと言わざるを得ない。だが、彼らの批判に、心当たりがないわけではなかった。ベルリンにきてから感銘を受けたコンサート・シリーズの一つ、Raung Rayaがキャンセルされた時のことを私は思い出していた。
Raung Rayaは、インドネシアから数々のアーティストを招致し、彼らの音楽をフィーチャーしたRabih Beainiの企画によるBerghainのステージを借りた一連のコンサート・シリーズだった。だが、助成金の使途を発端として一部のアーティストの宿泊などの待遇への期待の高さからプロダクションサイドと信頼破綻し、最終的に既に企画されていた続編が中止されてしまったのだった。
シリーズの最初の2つの夜は、ムーンドッグの作曲をガムランで演奏するという非常にレアなパフォーマンス、インドネシアのスンダ列島から来た竹の楽器を使ってヘビメタを演奏する変わったバンドなど始め、まるで観たことのない音楽で強烈な印象を与えた。私はRabih Beainiのキュレーターとしての才能に心底感心して、すでに発表されていた翌月の続編を楽しみにしていた。地球の反対側からはるばるBerghainの名だたるステージに、これだけ多くの、そしてイノベイティブな組み合わせのアーティストを上げるのは、並々ならない労力を要する仕事だっただろうという事は簡単に予想できた。実際Rabihは、この企画のために最大限を尽くしていたのだが、宿泊条件などの待遇に不満を持ったインドネシア側の一部のアーティスト達の疑念は、Rabihとベルリンのプロダクションサイドに降りかかった。「助成金の配分がアーティスト自身ではなく、プロダクションコストに不当に多く配分されている」というのが彼らの言い分だった。続編のキャンセルとその理由を聞いて、まるで橋が落ちるのを見ている様な気持ちだった。橋が落下する時、壊れてしまうのは物理的な橋の構造だけではなく、その橋が表していた繋がりそのもの、それが壊れてしまうのを見るのは辛かった。ベルリンでこのコンサートシリーズを楽しみにしていた多くの音楽ファンが、落胆していた。
ファンディング団体の助成金を頼りとせずに、DIYの方法論でシーンを作り、繋げてきたMultiversalとMultiDOM、そして各地に散らばる開拓者達が築き上げている橋は、異なる構造を持っているはずだ。
近年ウトゥクとアニヤは日本でも積極的にツアーしており、日本のローカル・アンダーグラウンド・シーンを列島縦断しながら繋げることに一躍貢献している。最新の日本ツアーは2019年1月5日を皮切りに、まずは前半15日程をウトゥクとノルウェーのEirik Havnesから成るTurbohalerとして行われる。Turbohalerは様々なエクストリームメタルのフォームを取り入れながら、悶絶ノイズをフリーフォームの即興で演奏する2ピースだ。ツアーは続き、1月20日から始まる後半18日程を、ウトゥクのソロ/コラボレーションプロジェクトでの別名義BEEATSZとして回る。
彼らの活動と未だ知られざるアンダーグラウンドの豊かなシーンを、ぜひMultiversalとMultiDOMによる2019年初頭の日本ツアーで体験してみて欲しい。この日本ツアーを含む彼らの最新スケジュールは、こちらのリンクで確認されたし。