この記事は、パンデミックの打撃を一番モロに受けたであろう、音楽イベント業界に関わる全ての人たちに向けて、主催者、出演者、観客のそれぞれが、どうやってこの危機を乗り越えられるかを考察することを焦点に、書かれている。モース・フェスティヴァル(Moers Festival)のCEO ジャン・マリー・ヴァレンが主催者として、今年のレジデントでもあるキーター奏者マット・モテル(Matt Mottel)が出演者として、それから、彼らにインタビューを行った筆者が観客として、この危機を通じて学んだことを、ここに記したい。
今年50周年を祝うモース・フェスティバルが、限定数であっても観客を迎えて例年通りに2021年のフェスティバルを5月の連休に開催すると発表したのは、ドイツで最も厳しいロックダウンが敷かれていた暗い1月の空の下だった。事態の先行きは不透明で、当時はほとんどのフェスやコンサートが秋か果ては2022年の先まで延期されていた。そんな中で経済的に全く成り立たない限定したキャパシティーでの音楽イベントを企画している主催者はごく珍しく、
DIYでシーンを作る:Multiversalのウトゥク・タビルに密着(後編)
限られた光源の中でプレイしているデュオは、チリ人テクノ・エクスペリメンタリストでテクノフェミニズムを掲げる活動家のConstanza Piña、それからノルウェーのベルゲンから来たčirnŭの2人であった。重たく分厚いインダストリアルな音がドローン的に部屋を埋め尽くし、空気が振動している。ひとしきり部屋中を震わせてデュオが演奏を終えると、機材が並ぶテーブルの周りに集まった観客が、興味深そうに機器を確認していた。
「これはラジオで、それからこれ(分厚い金属のシートにマイクが括り付けられている物体を指差しながら)は、ピックアップだ。フィードバックを集めて音を循環させているんだ」とčirnŭが説明した。
DIYでシーンを作る:Multiversalのウトゥク・タビルに密着(前編)
音楽と最新テクノロジーの関連性や可能性について考えていた最中(こちらの記事参照)、どうして我々はテクノロジーに頼り、身体拡張を試みるのか、神になりたいの?完全になりたいの?などと問うていた最中、なんともローファイでシンプルなアナログセットアップでドラムの即興ソロ演奏をしてみせるドラマーのパフォーマンスに出会った。ダイナミックで叙情的な、このフリージャズ/ノイズドラマーの演奏に、「あなたはすでに完璧!」と泣きたくなったのであった。
季節は11月の暮れ、Loopholeという名の今にも朽ち果てそうな店に到着した頃には、ベルリンの街は既に暗さに包まれていた。ノイズ関連の音で知られるこのクラブ/バーは、その廃墟寸前の見た目に反して、ベルリンアンダーグラウンドの至宝として愛され重宝されている。ブッキングポリシーは至ってオープンで、あらゆる形態の実験的な音楽やパフォーマンスを受け入れている。ある程度の音量への許容から、自然とノイズやエクストリームな実験音楽の場として知られる所以に。
センサリー・テクノロジーとロボット・キネティック・ミュージック:人間 vs ロボット【Eli Keszler // Mouse on Mars Dimensional People Ensemble】ライブレポート
(関連:ヤン・セントヴァーナー、モーリッツ・サイモン・ガイスト、ラシャッド・ベッカー、グレッグ・フォックス、センサリー・パーカッション、スクエアプッシャー、ブラム・シュタッドハウダー、アクトレス+ヤング・ペイント)
義手のための触覚技術の研究をしているというシッディーに出逢ったのは、フェスのために出掛けたある旅先のゲストハウスでだった。同じフェス目当てで街にやってきた年頃の近い女の子同士ということで、私達はすぐに仲良くなった。音楽好きのシッディー、サックスも吹くミュージシャンということだったが、バリバリ理系の才女。仕事は何しているの、という話から、シッディーの研究の話を聞かせてもらうことになった。手を失った人のために、触覚を持った人工皮膚の技術開発をしている研究室に在籍してそこで実験の日々だと言う。ロボット義手の技術が既に存在すること自体、知らなかった私にとっては、その義手から感覚をフィードバックさせて脳で操作するなんて、SFの世界、夢のまた夢みたいな話であった。
「念じると動くの?信じられない。」